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雨が降り、洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ち付けても、倒れることはない。岩を土台としているからである。

愛されている光子

愛されている光子 13 「闇の中の光」

「暗闇の中の光」
シカゴの晩秋は十月に始まる。十一月になると真冬のような寒さの厳しい日が訪れる。そんなある日、光子は出かける用意をしていた。電話が鳴り響き光子を驚かせた。出かける前の電話に少し苛つきながら、光子は受話器を手にし、「ハロー」と言った。
「光子、今日は寒いよ。」と光子のハズ、正だった。「ゼロ(F)・ウェザー(零下ニ十度C)との予報だったよ。」
「ああ、あなた。ありがとう。わざわざ電話くださって。小林さんの家は近いし、大丈夫よ。それに納豆作りに行くのだから、楽しみなのよ。」
「その納豆、今晩食べられるのかな。」
「まさか。二十四時間以上はねかさなければならないのよ。」
「残念だね。ホームメードの納豆を食べられると思ったのに。気をつけて行ってらっしゃい。山本先生にも、愛子さんにもよろしく。」と言って電話は切れた。
小林愛子は上手に納豆を作るのだが、半分以上ダメになるとのことだったので山形在住の弟から、山形にある納豆菌製造所の納豆菌と作り方の書いてあるものとを取り寄せ、送ってもらった。そのインストラクションに従って、今日は納豆作りをする約束をしていた。
愛子の家に着くと美味しい匂いが入り口のところまで漂ってきた。それはチキンを煮ている匂い、『今日のお昼はチキン・スープだわ。』などと考えていると愛子が出て来て、
「いらっしい。寒かったでしょう。先生、もう来ていらっしゃるわよ。」
「そう。あの先生はいつも早いから。良い匂いね。チキン・スープ。」
「あら、分かる。寒いからお昼はチキン・スープにしたのよ。昨日から煮ているからチキンのみも柔らかくほぐれてるわ。」
「美味しそうね。ありがとう。よろしくね。お昼、待ち遠しいわ。」
「美味しいといいんだけど。」
「あなたのお料理はいつも良い味がしてるから期待しているのよ。レシピ頂戴ね。」と言いながら光子はいろいろ着てきたものを脱ぎ始めた。
「オーバーなどはベッドの上に置いてもらったんだけど...。」
「はい。いいわよ。ベッドの上に置くわね。」
「先生はダイニングにいらっしゃるから。私はちょっとキッチンにいるから。」と愛子はキッチンに行った。光子はコートなどいろいろなものを愛子が言ってくれたベッドの上におき、そのあと先生のいらっしゃるダイニング・ルームへと向かった。
「先生、おはようございます。寒いですね。大丈夫ですか。」
「やあ、おはよう。私は車だから大丈夫だけど、君こそ寒いところ歩いてきて、大丈夫だったかい。」
「ハイ、ありがとうございます。近いですから。」
「ピック・アップしてあげればよかったけど、君が一方交通が多いからと言ったから。本当に一方交通ばかりだね。愛子さんの前の家は分かりやすかったけどね。」
「先生、間違わずに来られましたか。」
「まあまあだったけどね。一つ間違えると大変だね。」などと話し合っているところに愛子がお茶を持って来てくれて、
「どうぞ。」「ありがとう。」お茶を出したあと、愛子は、
「まず、納豆作りから始めましょう。チエ子もそろそろ来るでしょうから。」
「あら、チエ子も来るの。」
「ああ、ごめんなさい。一番に言おうと思ったのに忘れちゃった。先生が...。」
「チエ子さんが今朝電話してきて、何か話があると言ったので『今日は君達と納豆作りをすることになっている』と言ったら、『自分もお邪魔させてもらいたい。』とのことだったので、愛子さんに電話してOKをもらい、チエ子さんも来ることになったのだよ。」
「そうですか。良かったですね。私も山形から納豆菌がきたとき、それを使って納豆作りをするからって、一応誘ったのよ。彼女を。でも仕事があるでしょう。だから来れないと言ってたんだけど。チエ子、きっと何か急用ね。よほどの話があるのね。先生と。」
「君達にも聞いてもらいたいってことだったから。」
『ピーン・ポーン』
「あっ、チエ子ね、きっと。」と愛子はチエ子を出迎えに行った。二人で挨拶をしながらやってきた。三人で一応の挨拶が終わったところに、チエ子のコートなどをベッドに置きに行った愛子が戻って来て、
「さあ、お湯が沸いてるから。納豆作りをまず始めましょう。チエ子、今お茶を入れてあげるからね。先生も、光子もお茶の茶碗を持ってキッチンに来てくださいね。」
光子は納豆菌を取り出しながら、一応先生とチエ子に説明し、説明書を渡した。愛子は手際よく大豆をねかせる用意をし、大豆をオーブンの中にねかせた。そのあと皆で愛子を手伝ってお昼にすることにした。
「先生はどうぞダイニング・ルームの方においでください。今日はスープとパン、そして変な取り合わせですが、漬物で、昼食です。」
「美味しそうなパンね。」
「チエ子が持ってきてくれたのよ。」
「うちの近くに今度イタリヤン・レストランができてね、パンがとても美味しいとのことなので買ってみたのよ。美味しいといいんだけど。」
愛子はパンの包みを開けながら、
「イタリヤン・ブレッドはスープに合うし、美味しそうな匂いよ。」と言った。
「このスープ皿とスプーン、お箸などを持って行っていいかしら。」
「ええ、チエ子、お願いします。光子、その漬物切ってね。」
「漬物切ったら、私はこの漬物とパンを持って行くわ。」
「ああ、そこにあるオリーブ・オイル、パルメザンチーズ、それにスイス・チーズなども持って行ってくれる。パターもいるかしら。」
光子は漬物とパンをダイニングに置いてからキッチンに戻ってきて、
「愛子、みんなバターはいらないって。スープ持てる。」と愛子に言った。
「ええ、大丈夫よ。」愛子はスープを持ってきて、
「さあ、スープもお一人、お一人ここから各自のボールに入れてくださいね。さあ、頂きましょう。先生、お願いします。」
「ハイ、では食膳の感謝をしましょう。」といって先生はお祈りを始めた。
「ご在天の父なる神、あなたのみ名が崇められますように。小林家に集まり納豆作りの楽しいときをありがとうざいます。あなたもここにいてくださることを感謝します。備えられて食事を祝し体の糧、霊の糧としてください。これから語られる会話をもあなたが祝してくださいますように。イエス様の御名によって。アーメン。」
みんな美味しい匂いのするスープをいただき、その味の良いのに満足し、『美味しい』、『美味しい』と言い合って、レシピを日曜日に持って来てくれるようにお願いした。
食事はまだ続いていたけれども、先生はチエ子に、
「チエ子さん、何か話があるとのことだったけれど、今話しできますか。」と聞かれた。チエ子は皆の顔を見回して、
「皆さんも一緒に聞いてね。私に直接関係があることではないだけど...。」と言って話し始めた。
「私の働いている事務所の若い女の子のことなの。高校を出てニ、三年かな。まだ結婚もしていない子なんだけど、その子が私に話がしたいと言って来たの。その子はメール・ルームで働いていて、毎日二度はメールを配って歩くのでそのとき顔を合わせ、『ハロー』と言うくらいで、そんなに親しいわけではないのよ。でも一ヶ月くらい前だったかな。その子の誕生日にケーキを作ってあげたりしたのよ。三、四日前の朝、その子の顔色が余り良くなく、病気なのかなと思えるような感じがしたから、いつものハローだけでなく、『何か元気がないわね。風邪などひかないようにしなさいよ。』と言ったのよ。そしたら涙ぐんでしまってね。話がしたいって言われたの。」
先生はチエ子の顔を見ながら、
「あなたはえらいですね。そうやって人を見て、その人が何かいつもとは違うと分かるのだから。それが互に愛し合いなさいということでしょうね。」
チエ子はちょって恥ずかしそうにして、
「先生、そんな大それたことではないんですけど、毎日顔をみているとその人の喜怒哀楽ってわかるのではないでしょうか。」
「それはそうだけどね。あなたはそうやって人のことが分かるってとこあるわよ。ねえ。」と光子は愛子に同意を求めた。
「そうよ。チエ子、あるわよ。」
「そうかしら。気をつけなくちゃ。」
「そんなことないですよ。」と先生は仰り、「それは良いことで、きっとあなたに与えられた霊の賜物のひとつでしょうから考えてお使いなさい。」
「ああそうですか。ありがとうございます。」
「それからどうしたんですか。」
「ああ、すみません。話がそれてしまって。それでその子とお昼を一緒にする約束をしたんですけど、お昼まで待てそうもないその子の状態だったので、直ぐにお手洗いにその子を連れて行ったんです。その子の話は驚くべきことだったのです。『三日前にレープ(強姦)された。』って言ったんです。私は何も言えなかった。何か言わなければと思うのだけど何も言えなかったんです。それに私まで涙が出てきちゃって考えることなど出来なかった。その子と二人で泣いちゃったんです。だらしがないですが泣いただけでした。その子が仕事に戻らなくちゃというので、お昼を一緒にしましょうねと約束したんです。でもその日から昨日まで急な仕事が入ってしまって全然時間がとれず、昨晩は遅くまで働いたので今日は休ませてもらったのです。明日は出勤しその子とお昼を一緒にするつもりなんだけど、何を言えばよいのか。今日、先生はじめみんなとこうやってお昼をご一緒できたこと、本当に感謝しています。」と愛子の顔をみながらチエ子は話し終わった。
愛子は一番常識があり、こんな問題のとき答えを考えてあげるのに最適の人だった。
「お医者さんに行ったかとか、警察に届けたかとか。これらは常識的な質問よね。」
「そうよね。私はそんなことにも気が回らなかった。ただただ吃驚しちゃって、その上可愛そうという想い出いっぱいになってね。」
先生はゆっくりとみんなの顔を見回して、
「こういうことって多々ありますね。特にこの頃の新聞に載っているのはチエ子さんの話と似通った本当に悲しいニュースばかりですよね。この間も私の孫の行っている大学での乱射事件。娘は取るものも取りあえず大学へ飛んでいきましたよ。孫は何でもなかったけどね。大学生たちが精神的に病んでいる人が多いですよね。そのため何十人もの若者たちが何の理由もなく、只そこにいたためという理由で殺されてしまうんですから。親の気持ちはどんなでしょうね。」
「クェーカーの村落で起こった乱射事件も本当にかわいそうでしたね。先生。」と愛子。「愛子さん、あなただって乱射事件ではないけれども息子さんを亡くし、心痛めたからよくわかるでしょう。悪いことをされたときどうすれば良いか。考えるべきことですね。」
「私は息子の死によって真の神を見つけられたんです。先生のお蔭でもあります。感謝しています。」
「いや、私ではありませんよ。あなたのその経験を話してください。チエ子さんの助けになるかもしれませんよ。」
「そうですか。」と愛子は話し始めた。
「私は十六歳になる息子を亡くしたんです。自動車事故でした。バスを捕まえようとして飛び出した息子も悪かったんです。でも初めはそれが見えませんでした。ただ息子を撥ねた運転手さんが憎かったんです。私は仏教徒の家に生まれ、お寺に行ったことはないのですが、仏教徒と思っていました。それで息子が死んだときもおお坊さんにお願いし、お葬儀をしてもらいました。お葬儀は無事終りました。そのあと悲しみがどっと押し寄せてきて、悲しくて、悲しくて気が狂いそうでした。悲しくなると息子を引いたその女の人も、仏さんも、神さんもみんな憎らしくなりました。」
「そんな状態のときでしたか。私がきたのは。」と先生が口を挟んだ。
「いいえ、先生がいらしてくださったときはもっと悪くなってました。私は仏教のことを悪く言ったり、宗教の良し悪しを比較したりする考えは全然ありません。お寺のお坊さんは、私がそのように苦しんでいるときに来てくださったんです。それはそれで感謝しています。お坊さんは、『お子さんを亡くして悲しいでしょうね。私は子供がありませんし、子供の死に会ったこともありませんので小林さんの悲しみ苦しみを分かち合って慰めてあげることなどできません。でも仏陀は諦念の心を教えてくださってます。息子さんは十六歳の寿命で生まれてきたんです。ですからそれを考え、寿命として受け取り、仏陀の教えである「諦めること」が大切です。』と話してくれました。でも子供を亡くしてそれを「あきらめろ」と言われても諦め切れません。寿命だからと言われると誰が人の寿命を定めるのかと聞きたくなりました。寿命として息子の死を諦めることなどできることではなく、ますます悲しみ、迷い、苦しみました。その女の人を恨み、神や仏が寿命と定めるのかと考え恨み、怨念に満たされた邪鬼のような心の自分を見て苦しみました。」
「私の母は五歳の子を亡くしたとき気がふれたわ。」と光子は二十年近く前の母の苦しみを少しは理解できたような気がした。
「そうね。気がふれるか、気が狂ったほうが楽になれるかもしれないわね。そんなときでした。先生がいらしてくださったのは。今、冷静になってあのときの先生の話を考えると、先生の話も、何故息子が十六歳で死ななければならないのかという私の質問の答えにはなっていませんね。先生は神の愛と恵みを話されました。神は神の子を十字架に付けて死なせ、それによって愛と恵みを表してくださったという話をしてくださいました。先生の話された神は自分の子を亡くしている。私の苦しみを分かってくれるに違いないと思いました。先生はそれだけ話されてお帰りになりました。お祈りしてくださったのでしょうが覚えていません。泣いている私を残してお帰りになりました。」
「えっ、私がそんなことをしましたか。」
「ええ、お帰りになりました。でもその日のうちに電話してくださって、次の日にまた来てくださいました。そしてその日は難しいことを言われました。神は息子を十字架で死なしただけでなく、息子が死に至る前に、『この人たちを許してください。』と言わせているんですよと仰って、私に息子さんを死に至らしめたその女の人を許しなさい。どのような情況の下であっても息子さんを死に至らしめたその方は悪いでしょう。それは法に任せるとして、あなたはその方を許さなければ憎しみがつのり悪鬼のようになりますと仰いました。私にその方を許しますか、と二度お聞きになりました。」
「それでどうしたの。あなたわ。私もその点で考えなきゃならないことがあるのよ。噂の対象にされてね。それが全然間違った話になってしまい、多くの人たちから恨まれ、ボイコットされたことがあるのよ。」
「噂は人を殺すって言うものね。」とチエ子。
「先生の仰った許しのこと、朝も昼も夜も考え通したわ。ニ、三週間かかったかしら。先生に来ていただいて祈りながらその方を許し、神には私を許してもらったんです。」愛子は考え深げに話し続けた。「それはもう体中が暖かくなって、重い荷物をどさっと置いたような、体が軽く、軽くなったようでした。暗い、暗い闇の向こうに光が見え、その中に飛び込んだようでした。息子の死の悲しみはなくならなかったけど、邪鬼のような醜い心が見えなくなったのですから。それは良い気分でした。それから息子のこともその他いろいろ勉強させてもらいました。先生、本当にありがとうございました。」
「いや、さっき言ったように私ではないですよ。」
チエ子も何か分かったようで、感謝の気持ちを表して、
「今日は本当にいろいろとありがとう。お昼は勿論だけど今の話、本当に良かったわ。明日はその女の子とお昼を一緒にするけど、どのように話をするかが分かったわ。」
「私は今から帰りますから。」
「あっ、先生デザート食べなくちゃ。持ってお帰りになりますか。」
「じゃ、そうしてもらおう。」
先生にデザートを差し上げ、『さようなら』をしたあと、三人でデザートを食べながらまたおしゃべりをして楽しい時間を過ごした。
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愛子のチキン・スープのレシピを続きに書いたので作ってみてください。

愛子のチキン・スープのレシピ
梅干は日本の抗生物質、チキン・スープはユダヤ人の抗生物質。風邪をひくとユダヤ人のお母さんは必ずチキン・スープを作って家族に食べさせると言われています。

1羽 チキン(約十人から十五人分)
 このスープだけでメインデッシュになります。パンとチーズを一緒に。
1カップ ホワイト・ワイン
8カップ 水(チキンがカバーする程度)
各2包み チキン、ビーフのスープの素
 またはチキン・スープの素
2枚 ペイリーフ
各少々 ペッパー、塩
ニンニク
中2本 人参
4本 セロリ
中2個 玉ねぎ
中2個 ジャガイモ
エンジェル・ヘアー(随意)茹でておいてサーブするとき、各自のスープ皿に加える

チキンをきれいに洗う
丸ごとのチキンにまぶすようにしてワインをかける
最小の火で10時間煮る(途中泡を掬う)
日中煮て、一夜そのまま冷やすとチキンの油がとれる
冷やしたスープからチキンを取り出し、チキンのみを崩すようにしながら骨を取る
スープを漉す
水、その他を加え3、4時間煮る
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プロフィール

Tsukasa Hiroko

Author:Tsukasa Hiroko
初めの家は塵でできており、砂の上に建っていました。
四十年前にシカゴで木の家を岩の上に建てさせていただきました。
今はレンガの家が岩の上に建つようにしていただいたようです。
金の家になれる日を望んでいます。

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